谷口吉生

2019.10.28 Monday

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    たまに一番好きな建物を聞かれることがある。

    迷わず答える。

    谷口吉生氏が設計した豊田市美術館、と。

     

    大学を卒業して設計事務所で働き出したのは2005年だが、

    豊田市美術館はその10年前の1995年に竣工している。

    設計事務所に建築の雑誌や本が大量に置いてあったので、

    仕事の合間に片っ端から読んでいたが、

    その中で目が留まったのが豊田市美術館である。

    また、その2005年にたまたま社員旅行で名古屋の愛・地球博を訪れることになった。

    ただ、私はせっかく豊田市の近くに行くチャンスが出来たので、

    博覧会会場に着くなり、仲の良い会社の同僚と一緒に

    博覧会会場には入らず、集合時間に間に合うように急ぎ電車を乗り継いで

    豊田市美術館へ向かった。

     

    現地へ着いて建物の外部、内部をひたすら歩き回った。

    雑誌でおおよその雰囲気や内容は分かっていたが、

    天井の高さの変化や階段の作り、建物内部から見た各室までの距離感等、

    全てがわくわくするような気持ちでじっと見たり、各室を行ったり来たりしていた。

    たぶん館内の人からは怪しまれたと思うが、それが気にならないぐらいの

    ある意味、興奮した状態だった。

    最初に訪れて15年近く経つが、今までに10回近くは訪れた。

    建物を見るためだけにこれほど訪れた場所は他にない。

    何かが引き付けて止まない。

     

    谷口氏の設計する建物はシンプルで洗練されていて、

    ある種のミニマリストとして分類されている。

    私自身、特にシンプルで洗練されている建物が好きな訳ではない。

    そして、同じ特徴を持つ建築家は多くいるが、

    何故か谷口氏の設計する建物にずっと引き付けられていた。

    他の建築家と何が違うのかが、ずっと分からなかった。

    ただ、先月、コンペも参加せず、著作物も出さない谷口氏が著書を出版した。

    「私の履歴書」(谷口吉生)

    早速購入して、短期間で3回繰り返して読んだ。

     

    谷口氏がハーバード大を卒業し、お父さんも有名な建築家で、

    その当時、日本を代表する丹下健三氏の下で建築に接していたことは知っていた。

    ただ、その本を読んで今まで知らなかった谷口氏の生の声を聞けたような気がした。

    機械工学科を卒業してから建築の道へ進んだことで大変苦労をしたこと、

    若い時は徹夜続きで建築に打ち込んでいたこと、

    今も変わらず模型を通して現実の建築の完成度を高めていること、

    どの建物にも自分が関われるようにあえて事務所の規模は小さくしていること、

    時代の流れに合わせて目新しい建築は目指さないこと、

    敷地に何度も足を運びそこから発想を得ること、

    高いハードルがあっても地道に自分がすべきことをしていくこと、

    建築主や施工者に支えられて建築を作ることを自覚していること、等。

    能力も環境も私と比較しようもないが、

    ただ思った。

    私の考えや行動と同じだ。

    だから、彼の設計する建物、特に豊田市美術館が好きなのだと妙に納得した。

    考えや行動が同じでも能力も環境も違えば結果も異なる。

    それでも私を引き付けて止まない、豊田市美術館に憧れている以上、

    その考えや行動を推し進めて、もっと必死に努力して

    豊田市美術館を超える設計をいつかしてみたい。

    そう思わせてくれた谷口吉生に感謝したい。

    一つずつ着実に

    2019.10.25 Friday

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      リノベーション現場で施工者と打合せを行い、

      以前に建築主と約束した通り、建築主にも現場へ来てもらって

      現場打合せを行った。

       

      廊下と洗面室の取合い部分。

      廊下と洗面室では床仕上げが異なるため、

      床見切りの位置を施工者の考えも聞きつつ、

      打合せを進めた。

      製作建具の可動位置や建具枠の厚みや位置も

      現場に実際に書き込んでお互いに確認していった。

      図面に床見切りの情報は記載しているが、

      それでもこうした方がより良いのではないか、

      この方がきれいに納まるのではないか、等と話していたが、

      たぶん完成時には特別見栄えする部分ではない。

      だが、こういう所をしっかり設計者と施工者が共通認識を持って

      現場を進めることはとても大切なことである。

      その積み重ねの先により良い完成があると思う。

       

      吹抜けの一部にスノコを施工する予定で仮置きしている様子。

      これも図面上にスノコの設置ピッチを記載しているが、

      いきなり図面通り設置するのではなく、

      仮置きして設計者の意図を説明し、

      施工者からの意見を聞きつつ、打合せを進めた。

      10mm、20mm違うだけでメリットやデメリットも異なってくる。

      ある程度、意見が出尽くした段階で最終は

      建築主にそれらの考え方を説明した上で決定しようということになった。

       

      LDKの天井下地。

      一部を彫り上げ天井とし、化粧梁とスポットライトを設置予定。

      状況説明を聞いていると図面通りに施工しようとすると

      既存の梁と干渉する部分があったり、計画内容の補正が必要であることが分かった。

      また、大工さんもその打合せに加わり、

      大工さんの考えも取り入れつつ、

      コスト、安全性、施工性等、それぞれの観点から

      最も良い計画内容へ変更していくことになった。

       

      その後、建築主も現場へ到着し、現場の状況を一通り、歩きながら説明していった。

      そして、施工者との打合せ内容もできるだけ分かり易く説明していった。

      ただ、それぞれに関して最終的な意見としては「お任せします。」ということだった。

       

      設計や施工に関して建築主から「お任せします。」と言われるのは

      信頼頂いていることの裏返しだと思うので、うれしく思う。

      ただ、反面、任せられた以上、こちらからすると、

      建築主の思う常識的なレベルでの完成を少しでも超えていかなければ

      本当の意味での任せただけの満足感は感じてもらえないとも思う。

      しかし、設計に関しても現場に関しても

      具体的に目に見えてこないレベルで山あり谷ありという感じで

      当初の予定通り進めていくことですら難しいことの方が多い。

      それでも一つずつ着実に、検討し、施工者とも互いの意見をやり取りする等して、

      より良い完成を目指す気持ちを持ち続けることが絶対的に必要だと思う。

      設計の仕事をしていて思うが、

      最終的にこの仕事は世間のイメージとは異なり、

      センスや知識以上に設計に対する精神力が物をいうように感じている。

      真面目に、正直に、一生懸命に

      2019.10.19 Saturday

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        現場からいろいろと質疑があり、

        また、依頼していた照明のプレゼンボードが完成したので、

        現場打合せと建築主との打合せを行った。

         

        既存の火打ち梁。

        この部屋は勾配天井にするので、既存の火打ち梁が見えてくる。

        ボードで囲って隠してしまうことも可能だが、

        建物の完成イメージからするとそぐわないので、

        建築主に報告相談の上、方針を決定することとした。

         

        既存のサッシを取り外し、新規のサッシを設置した。

        ただ、サッシ上の既存の水切りを撤去するのか、そのまま利用するのかを

        現場で施工者とも相談したが、雨漏りリスクやコストのことを考えると

        既存水切りはそのままにして、新たに水切りを被せた方が

        メリットが大きいとの結論になったので、

        建築主に報告の上でそのように施工することにした。

         

        その他諸々の施工者からの質疑応答を行い、

        予定していたよりも時間がかかってしまったが、

        いろいろと解決することができ、

        現場が順調に進みそうなので、打合せをして良かった。

        施工者からの質疑や現場打合せを求められると

        必ず足を運ぶようにしているが、その点を施工者から感謝されることが多い。

        私からすると図面をきっちり書いたとしても

        その意図や内容が100%伝わると思っていないので、

        施工者から現場打合せを逆に求められる方がありがたい。

        施工者もしっかり考えてくれている裏返しでもある。

        設計事務所によっては現場に足を運ぶことは非効率と考える事務所もあるらしいし、

        施工者も図面の意図をちゃんと理解せず施工してしまう施工者もいるが、

        そういう部分は手を抜いても結局お互いが困ることになるので、

        そんなやり取りを今後も大切にしたいと考えている。

         

        その後、建築主と現場での内容や照明に関しての打合せを行った。

        現場からの質疑に関して説明していると

        建築主も現場へ足を運んでくれているようだが、

        どんなことが行われているか良く分からないとのことだったので、

        次回の現場打合せは建築主にも来てもらうことになった。

        私も同行して現場で説明すれば多少は理解が進むはずである。

        全てを理解することは無理でも多少の内容と設計者や施工者の姿勢は伝わると思う。

         

        建築主との雑談の中で建築主がある試験の合格を目指して

        以前から勉強しているということは知っていた。

        ただ、いろいろと話していると私が司法試験の勉強をしていることも

        一つのきっかけになっていると聞き、驚いた。

        話は変わるが、私の事務所の所員が来年には独立する。

        独立後もいろいろと手伝ってもらう予定だが、

        以前に雑談をする中で独立を目指す理由を聞くと

        私が独立してがんばっていることも理由の一つらしい。

        私自身はこうなりたいからこれをがんばらなければ、と

        手探りで一人黙々とすべきことを行っているが、

        知らないうちに私以外の人に何かしらプラスの影響を与えているとしたら

        それはうれしいことだ。

         

        設計の仕事も現場の打合せも試験勉強も

        いろいろと自分なりにやり方を試したが、

        結局、私には真面目に、正直に、一生懸命に、

        私がすべきことに取り組むことが一番、性に合っていると思う。

        うまく行かないこともあるし、なかなか結果が出てこないこともあるが、

        めげずにそのやり方を貫いていきたい。

        完了検査を迎えた

        2019.10.16 Wednesday

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          建築主に初めてお会いしてから約2年。

          ようやく完了検査の日を迎えた。

           

          建物外観。

          スロープも出来上がったが、

          雨の影響で点字ブロックや駐車スペースの

          コンクリート舗装はこれから。

           

          個室の内観。

          水廻りの機器も全て設置され、

          クロス等の仕上げも特に問題なかった。

           

          建物の完了検査を行ったが、

          開発届出とは反比例するように特に指摘事項もなく、

          無事終わった。

          消防検査を2日後に控えているので、

          それが終わればようやく検査済証も発行される。

          ただ、開発届出の完了の目処が立たないので、

          ようやく終わったという感じがない。

          設計者としてできることは限られているが、

          原理原則、設計者としての本分をしっかり果たしていくしかない。

          ジャン・ヌーヴェル

          2019.10.14 Monday

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            1、2か月前だっただろうか。

            たまたま本屋で見ていた海外の建築を紹介する雑誌を

            見ていた時に久しぶりにそのページを見た瞬間にその建物に引き込まれた。

             

            カタール国立博物館。

            砂漠のバラを模した形状をしている。

            コンセプトも読み込んでいったが、

            シンプルで明快で、その建物とコンセプトがとても合っていた。

             

            設計者はジャン・ヌーヴェル。

            今年で74歳だから日本で言えば、

            安藤忠雄や伊東豊雄と同年代。

            海外で言えば、レム・コールハースやスティーブン・ホール等。

            私が大学で建築を学んでいる頃に

            彼らの建築作品が常に建築雑誌を賑わせていた。

            ただ、正直、ジャン・ヌーヴェルはあまり興味が湧かなかった。

             

            ジャン・ヌーヴェルの最新プロジェクトの本。

            最新と言っても、少し前の本しかなかったが、

            とても興味が湧いたので、早速購入した。

            本の一番最初のインタビューの所に彼が

            「建築家は一種の触媒なのだと思っています。」とあった。

            ちょうど私も最近、私にしかできない設計を、ではなく、

            あくまで私の設計のスタンスは建築主がいて、

            その設計を行う土地があって、それぞれに耳を傾け、

            それらに私の設計の知識や経験を通して完成させる建物が

            私の目指す設計だと考えていた所なので、

            会うべき本は会うべきタイミングに出会うのだと改めて思った。

             

            私は英語はしゃべれないし、有力な建築的なバックボーンがある訳でもない。

            それに所員を多く抱えてもいないし、華々しく作品を雑誌に掲載されている訳でもない。

            どちらかというと、細かな金額を追って予算と見積に頭を抱えていたり、

            役所に提出している申請書類の細かな内容の修正を行ったり、

            この日本の神戸という場所でひたすらもがいている感じである。

            そんな状態でもいつかは日本以外の世界のどこかで

            私の設計した建物を建てていきたいと思う。

            ジャン・ヌーヴェルの経歴を細かく見て行くと、

            今は世界的な建築家ではあるが、60歳過ぎても

            いろんなコンペに提案しても落とされる方が多かった。

            きっと彼は彼でもがき続けているのだろう。

            彼と私を比べようもないが、それでももがき続ける先に何かがあると信じて、

            より良くなっていくために考えられることを必死に考えて

            死ぬまでしっかりと、もがき続けたいと思う。