建築主からの言葉

2020.08.31 Monday

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    JUGEMテーマ:建築・設計・デザイン

    去年の年末にリノベーション工事が完了した建築主の別件の仕事を最近手伝っていた。

    その仕事のやり取りでメールが届いた。

    前半は仕事の内容だったが、後半は仕事とは関係ない別の内容が書かれていた。

    「田中さんに設計監理してもらった家はとても快適に過ごせています。

    早くまた田中さんの設計した建築物で笑顔になる人が出てくるようにと思っています。」

    と書かれていた。

    前触れもなく突然そんな内容が書かれていて、とてもうれしくなった。

    コロナの影響で仕事状況は大変だということも立ち話で話題に挙げていたので、

    それを気遣って勇気づけようとしてくれたのかもしれない。

     

    コロナ禍以降、プレゼンする機会が多かった。

    そして、事務所開設後から今まで多くのプレゼンをしてきたが、

    わくわくする気持ちがある反面、もやもやすることも多い。

    紹介や直接連絡、ネット上での募集等、いろいろなパターンでプレゼンするきっかけがある。

    プレゼンの依頼があれば費用をもらってプレゼンする設計事務所もあるが、

    私の事務所はまだまだ無名の設計事務所だから、

    間口を狭めて設計依頼を頂くチャンスを少なくするよりは

    少しでも多くの人と接する機会が持てるようにプレゼンは無料で行っている。

    ただ、無料だからといって手を抜くことはなく、

    最低でもプラン検討に数日、プレゼン図面作成に数日はかかる。

    その他に法的制限を調べたり、可能な限り、敷地も直接見に行くようにしている。

    私としては依頼頂ければそれに越したことはないが、

    他社と競合して他社のプランが優れていたのであればまだ諦めがつく。

    ただ、プレゼン図面の提出後に一切連絡が取れなくなったり、

    そもそもプレゼン内容ではないことで依頼先が決まったりすると

    なんのために手間と労力をかけてプレゼンしたのかが分からなく、

    もやもや、いらいらしたりする。

    また、建築主の要望も考え出すと捉え方が難しく、

    要望通りにプランしてプレゼンすると物足りないと言われたこともあるし、

    逆に要望を前提に私なりの提案を加えると要望と合っていないと言われたこともある。

    建築主の性格と本当に求めていることが初対面で見抜ければ

    そこまで悩む必要もないかもしれないが当然そんなことはできないので、

    結局、出たとこ勝負しかできない。

    だが、実際に100件以上の打合せや工事監理、そして完成までを一通り経験してきた立場から言うと、

    最初の要望通りに建築物が建った試しはない。

    打合せの中で建築主が求めているものは変化していくし、

    私自身は打合せの中で建築主自身が考えているイメージを突き詰めていくこともするが、

    そのイメージとは異なるものもあえて提案する。

    何故なら、本当の意味で建築主が望んでいるものは建築主自身が気付いていないことも多いからである。

    建築主が抱くイメージとはあえて異なるイメージに接してもらうことで建築主自身が建築主に出会うようなイメージである。

    だが、それがうまく行く時もあれば、最初のプレゼン段階でその意図が裏目に出ることもある。

    それでも私としてはイメージ通りに設計するだけでは建築主にも申し訳ないし、

    そのイメージ通りに建ってしまった建築物自体にも申し訳ないから

    そのやり方は崩さないだろう。

     

    また、このコロナ禍中に以前から悩んでいることに答えが出た。

    今まで大きな枠組みで言う「仕事」をしてきて自分なりの流儀、

    もしくは、仕事上の自分の常識というものがある。

    例えば、建築主だけがお客様ではなく、施工してくれる施工会社も私のお客様であると考えているし、

    建築主を始めとする関係者への報連相は仕事を進めて行く上での最低限のマナーとも考えている。

    また、ワンパターンの設計はできるだけせず、

    建築主や施工者の意見に真摯に耳を傾け、

    最後の最後までより良い建築物の完成を目指すように心がけている。

    ただ、それはあくまで私自身の常識なので、

    私以外がそれに反することがあったとしても

    それはそれでしょうがないと考えている。

    だが、社会人なら守るルール、もしくは、誰しも納得する決まり事、

    例えば、話を聞く、問いかけに応える、内容を確認する、等が守られないことがあると

    意味が分からなかった。

    建築の専門的なことではなく、人と人とのやり取りの最低限がなされずに

    誰かしらが困ったことになると何故なんだろうと不思議に思っていた。

    私の方で改善できることはあるのだろうか、

    何か意味があるのだろうか、等と考え続けていた。

    知り合いからは、お前は考え過ぎだ、まで言われたが、

    それでも考え続けて自分なりに答えが出てきた。

    結局、答えとしては、意味はない、ということだ。

    私の常識ではなく、社会の常識や当たり前と考えていたことも結局、私の常識の範疇ということに気付いた。

    同じ人がいないように人それぞれの常識があり、人それぞれの考える社会人としての常識がある。

    そもそもそんなことを考えていない人もいるだろう。

    社会人としての常識はある程度共通しているものというイメージがあったが、

    事実を見つめればやはり所詮イメージであって、

    人それぞれの異なる常識があるのだから仕方がない。

     

    そして、プレゼンの前段階で建築主に、えっ、と驚く質問だが、

    設計者はどのように選べば良いか、という質問を何度か受けたことがある。

    選ばれる側の私に質問されても答えに窮する質問だが、

    いつも同じ答え方をする。

    「まず要望を設計者に提示してプレゼンしてもらってください。

    プレゼンの良し悪しもありますが、プレゼン内容と同じぐらい重要ですが、

    その一連のやり取りでその設計者の人間性を確かめてください。難しいことですが。

    そして、最終的に依頼する設計者とは縁があるかどうかだけです。」と答えている。

    急に質問を受けて咄嗟に答えた内容だが、落ち着いて考えてもその通りだと思う。

    自分自身の今までの設計者としての経験からも思うが、

    設計者はデザイン性に優れていなければならない。

    人の話を真摯に聞く人でなければならない。

    言葉にならない言葉を理解し、確認し、発展させていかなければならない。

    建築の知識や経験が豊富でなければならない。

    建築や設計が好きでなければならない。

    設計者自身の人間性が豊かでなければならない。

    どんな時でも慌てず落ち着いて考え、行動する人間でなければならない。

    困難な状況でも前を向いて進んでいかなければならない。

    他者への寛容さを持ち合わせていなければならない。

    建築や設計に対しての自分なりの筋を通す意思の強さを持っていなければならない。…等

    ただ、過去に設計依頼を建築主から頂いた時のことを思い出すと

    一言、縁があった、というだけだ。

    建築主なりに理由はあったと思うし、設計者である私なりにも理由はあったかもしれないが、

    結局、縁があって設計の依頼を頂いたとしか言いようがない。

     

    プレゼン時のあれこれ、建築主の要望、自分の常識、他人の常識、

    設計者の選択、設計者の資質、

    いろいろと考え出すとよく分からなくなってくるが、

    今回建築主から頂いた言葉、

    また、先日も別の建築主から同様の言葉を頂いた。

    私自身、優れている所、まだまだ足りない所もあると思うが、

    今まで私なりに考え、最善を尽くしてきた結果としての

    その頂いた言葉であり、それはイメージではなく事実なのだから、

    よく分からないなりに進むべき方向性を向けているのかもしれない。

    先週は建て替えのプレゼン提案を行ってきて、

    今週はリノベーションの相談で建築主宅を訪れる。

    「縁」があった建築主からそのような言葉をもらえたのだから、

    今後「縁」のある建築主にも最善を尽くすことが私自身の使命だと考えている。

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    2020.09.19 Saturday

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