私はすでにプロフェッショナルなのだ

2019.08.16 Friday

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    JUGEMテーマ:人生論

    もう少しで完成する案件の建築主から連絡があった。

    バルコニーは当初ウッドデッキで仕上げる予定だったが、

    最終的にタイルで仕上げることになっていた。

    工事も後半になってその設置のための土台部分に

    施工者から予期しない追加見積が上がってきたため、

    結局、断念することになった。

    建築主としては私が以前にウッドデッキからタイルに変更しても

    そこまで費用は変わらないと言っていたのに、

    何故、このタイミングで追加見積なのかが分からないという内容だった。

     

    私の方では原因ははっきり分かっていた。

    着工前後に最終タイル仕様に決定したため、

    仕上表の図面にはその旨、記載していたが、

    着工までに時間はなかったので、

    それ以上の詳しい図面はなかったこと。

    そして、その結果、設計の意図と施工の意図が食い違っていたことが原因である。

    ちなみにこのタイルは施主支給品であった。

     

    この「施主支給品」と「着工図完成後の工事中の変更」は

    数年前から私の悩み事だった。

    具体的に言うと、これに絡む内容で建築主と施工者の非がない場合は

    結局それに掛かる費用は設計である私が支払うことになる。

     

    「施主支給品」はその名の通り、施主が材料なり製品を直接支給することである。

    今はネットで何でも手に入るので、途中のマージンが掛からず、

    施工者に依頼するまでもないものは施主支給品にすることが多い。

    ただ、建築主が材料や製品を発注することは不慣れなため、

    私が手伝うことが多い。

    しかし、ネット上の聞いたこともないメーカーとのやり取りに

    私も慣れている訳ではない。

    通常は打合せで仕様を決めていき、その採用しようとする仕様を

    ネットや直接メーカーに確認しつつ、図面を作図していく。

    そして、施工者はその図面に基づき、見積を作成し、

    発注する段階ではその仕様のメーカーからの確認図面が設計の方に送られてきたり、

    メーカーからの質疑のやり取りを行ったり、そのサンプルを見た上で

    問題ないか等を確認した上で現場へ納品される。

    また、完成後に不良があったりしても施工者を通じて対応してもらいやすい。

    結局、施工者経由の方が何重ものチェック体制になっていたり、

    メンテナンス体制が手厚いのである。

    しかし、施主支給品となると、施工者の方でも判断できないので、

    チェックは設計者頼みになる。

    また何かあった場合も施工者を頼ることができず、

    一応携わった専門家である、設計の私が責任を負うことになる。

     

    そして、「着工図完成後の工事中の変更」だが、

    初回の要望聞き取りから計画内容の概要、大まかな仕様を決定した上で

    建築主との基本設計を完了する。

    そこからは細かな納まりの検討や

    作図することで見えてくる問題点等を解決しつつ、

    きっちり施工を行うための着工図となる実施設計が完了する。

    そして、その後、工事が始まっていき、

    図面との整合性を現場で確認しながら工事監理をしていき、

    建物が完成する、というのが、原則である。

    また、着工図を完成させる時に私は今までの打合せで使用した図面や

    建築主とのやり取りのメール等を全部、着工図と確認していく。

    この作業は早くとも数週間、長ければ1,2か月ぐらいかかる。

    そして、最終、その内容を建築主とチェックしていく。

    地味で骨の折れる作業だが、私自身、それはとても大切な工程だと考えているので、

    その作業は欠かせない。

    ただ、その作業を行うことでそこまでの時点での大きな抜けや

    大きな勘違いは過去ないので、正しいことなのだと思う。

    だが、問題は着工図完成後に変更する場合である。

    そもそも着工までに全ての仕様が決定することが稀である。

    そして、工事中に変更がなかったこともほぼない。

    建築主には必ず伝えるが、着工するとバトンが設計者から施工者へ渡る。

    具体的に言うと、設計側では建材をいつ発注しているかも分からないし、

    各業者の段取りがどの段階かを知ることができない。

    変更が可能かを施工者に確認すれば済むのではないかと思うかもしれないが、

    一番ネックなのが、工事が進んでいる以上、検討したり作図している時間は

    ほぼないのである。

    着工前の作業を考えると、一般道でUターンして寄り道していた車が

    高速道ではそんなことはできない状態と同じである。

    経験上、些細な変更だから問題ないと思って変更した内容でも

    巡り巡ってそんなことになるのか、と痛い目に遭うのは数知れない。

    ただ、ハウスメーカー等のように図面に印鑑を押させて

    後日の変更を認めないようなことはしたいとは思わない。

     

    話は戻って、その連絡頂いた建築主の内容は

    まさしく私がずっと悩んでいた内容だったので、

    ある意味、甘える形で日頃の疑問をぶつけさせてもらった。

    建築主が設計者から悩みを相談されても困るだろうなと思ったが、

    この人達ならそれを受け止めて

    何らかの答えを出してくれるのではないかと思えたからである。

     

    約2時間かけて書いた長文メールにその建築主から丁寧な回答があった。

    以下のような内容だった。

     

    いろいろな要望や変更に対応してくれた田中さんに感謝しています。

    ただ、田中さんが望まないような状態になることが多いのであれば、

    芯の部分はぶれずにやり方を変える必要があると思います。

    そして、私達はあくまで一般人で、田中さんは設計のプロだから

    そうならないように田中さんご自身が私達を導いていく必要があります。

    そんな内容だった。

     

    そのメールを何度も読みなおし、

    私自身が日頃仕事をする中で思うことをメモしているが、

    それも読みなおしているうちに答えが見えてきた。

    結局、原理原則通りに設計をしていくこと、が大切だと思った。

    どんな建築主にも最初の方に完成までの工程表を渡すが、

    必ず言われるのが、そんなに時間がかかるんですか、である。

    2階建て木造戸建て住宅で、基本設計に3か月、実施設計と確認申請に3か月、

    見積調整と工事段取りに2か月、建築工事に5か月前後の

    トータル13か月程度である。

    私自身も完成までに1年以上は長いと思うが、

    実際はこれでも足りないことがほとんどである。

    仕様も決まっていて、建築主もこだわりがそれほどないのなら、

    8か月程度でも可能だと思うが、設計事務所に依頼するということは

    建築主のこだわりが強いということだから、

    より長い工程にならざるを得ない。

    また、どの案件も共通だが、お会いした時点で完成を急いでいる。

    さらに工程を提示されて1年以上と聞かされればもっと早く完成できるのではないかと

    思うのが当然かもしれない。

    だが、上記の通り、実際打合せが始まれば、本来は最初の基本設計で

    建築主との打合せはほぼ概要だけでも終えておかなければ、

    その1年後の完成ですら危うい。

    完成時期を早めて、基本設計に時間をたくさん使えば、

    その他の工程にしわ寄せが行く。

    ただ、その他の工程も決して余裕を持った工程でもないので、

    結果的に無理やり基本設計を終え、実施設計をしながら基本設計の残りを行い、

    着工する段階でもまだ基本設計をしていたりする。

    原理原則からすればすでに破綻している。

     

    以前に勤めていた住宅会社では仕様がほぼ決まっていたが、

    打合せ期間も4か月、打合せ時間も2時間と決まっていた。

    決まってはいたが、実際打合せをすると、

    打合せ内容の飲み込みが早い人もいれば

    こだわりたいけど、何をどうすれば良いのか分からない人もいた。

    特に後者の人には私の独断で2時間ではなく、

    その人が納得するまで打合せを行った。

    同じ話を2回、3回することになっても分かってもらって

    納得してもらうまで何時間でも打合せを行った。

    住宅業界は分かっているようで分からない家のことを扱うので

    別名クレーム業界とも呼ばれている。

    そんなやり方が良かったのかどうか分からないが、

    部下のクレーム処理には何度もいったが、

    自分の案件のクレームは受けたことがなかったので、

    時間はかかってもそのやり方が正しいのだと自信を深めた。

    実際、独立後は原則、こだわっている建築主ばかりなので、

    1回の打合せも平均すると4時間ぐらいしているのではないだろうか。

    また、打合せ期間や打合せ時間は自分の裁量で決めれば良いから

    建築主が納得するまで行った。

    ただ、唯一ネックなのが、どの建築主も完成を急いでいるということである。

     

    今回、建築主から頂いたメールで思ったが、

    設計のプロとして仕事をし、

    建築主に寄り添って良い建物を設計しているつもりが、

    知らないうちに一般人である建築主と同じ目線で設計を行っていることに気付いた。

    完成を急いでいるならそれに合わせます、

    その仕様が決めきれないなら工程とは違いますが工事中に再検討しましょう、

    今日はこれだけの内容を決めないと完成時期がずれる可能性もありますが

    しょうがないから次回打合せまでになんとかしましょう、等。

    それはそれでしょうがないし、その姿勢自体は間違っていないが、

    プロフェッショナルとして設計をしているなら、

    工程の今、我々はどこにいるのか、

    そして、その決定を延ばすことはどのような結果になるのか、等の

    設計のプロである私からしか伝えられないことを十分に分かってもらう努力が足りなかった気がする。

    決して、伝えなかった訳ではないが、私がプロで建築主は一般人という認識ではなかった。

    同じ目線で普通のことを言っているのだから伝わっているものだと思っていた。

    ただ、改めて一般人とプロの立場を言われて、

    ちゃんと説明はしていたけど、ほぼ伝わっていなかったような気がした。

    そう、私からすれば設計、そして、建築のプロフェッショナルとして日々の仕事はしているが、

    自分の理想とするプロフェッショナルになるにはまだまだ努力が足りないと思っていたが、

    一般人である建築主からすればすでに十分、プロフェッショナルにしか見えないのだ。

    寄り添う姿勢はそれで良いかもしれないが、

    そもそも立ち位置が違うのだからこちらが普通に話していることも

    分かってもらえるという前提ではなく、指導していく立場なのだ。

    結局、自分で良かれと思っていたことが自分をどつぼに落とし込んでいたのかもしれない。

    立ち位置が違うからこそ、それを気付かせてくれたのかもしれない。

    手を抜かずに地道に行うことが最近の目標だったが、

    それに加え、設計・建築のプロフェッショナルとしての原理原則を前提とすることで

    ここ数年の悩みは解消されるのかもしれない。

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    2019.10.19 Saturday

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